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第8回東アジア文化研究会

学術フロンティア・サブプロジェクト② 異文化としての日本

2008年度第8回東アジア文化研究会                                 
「近代日本のアジア侵略~その歴史背景を大きな歴史の
       流れの中でとらえなおす~」

報告者 西原 春夫 氏(アジア平和貢献センタ―理事長、
             早稲田大学名誉教授・元総長)    

  • 日 時   2008年11月11日(火)18時30分~20時30分 

  • 場 所    法政大学市ケ谷キャンパス 
         80年館7階大会議室1

  • 司 会   王 敏 (法政大学国際日本学研究所教授)

2008年11月11日(火)、18時30分から20時30分過ぎまで、法政大学市ヶ谷キャンパス80年館7階大会議室1において、2008年度第8回東アジア文化研究会が開催された。今回は、アジア平和貢献センター理事長、早稲田大学名誉教授・元総長の西原 春夫氏をお招きし、
「近代日本のアジア侵略~その歴史背景を大きな歴史の流れの中でとらえなおす~」という演題のもとで行われた。

      

 

80歳を超えるご高齢の西原春夫先生は、近代史を踏まえて将来の日本が進むべき道筋を明らかにされた。

先生が戦前の教育を受けた結果、戦中は文字通りの愛国少年として祖国日本の正義と勝利を信じていたが、17歳で迎えた終戦を機にそれまでの確信がすべて潰え去った。 爾来、先生は近代日本のアジア侵略の意義や背景を一貫して探求し続け、近年ようやく結論を得た、として本講演が始まった。

以下、配布されたレジュメの章立てに沿ってその内容をかいつまんで紹介する。

 

Ⅰ.前言

近代日本のアジア侵略の意義や背景については、終戦後数年を経ずして解明し尽くされたとされていたが、この60年間に人類は大きな歴史的変化を経験したために、当時確定した認識や評価に新たな視点が提供された。

Ⅱ.明治維新当時日本が学んだ先進国の国家観(19世紀的国家観)

「日本が植民地化を免れたのは、先進国並みの国家構造を急いで作り上げたからだ」という歴史認識に誤りはないが、問題は、それ以外にも欧米先進国から受け入れたものがあった。それこそが、日本に開国を迫った当時に彼らが既に確立していた「軍国主義に裏打ちされた、植民地主義を内容とする帝国主義」であった。先生はこれを、「日本はきらびやかな議会制民主主義と並び、そのどす黒い帝国主義を当然のものとして受け入れ、実践したのがその後のアジア侵略の歴史であった」と解釈する。

つまり日本は自らが帝国主義国家になることで、侵略と植民地化を辛うじて免れ得たのである。ここで近代帝国主義の特色を、「軍国主義に裏打ちされた、植民地主義を内容とする」と定義したうえで、近代日本の歩みはまさにそうした意味での帝国主義に他ならなかったとする。

Ⅲ.そのような19世紀帝国主義が形成された理由

先生は、歴史を「流れ」として捉えることが必要であるとして、大局的見地から、近世・近代の間にヨーロッパが歩んだ道筋を俯瞰する。

すなわち、長く続いた封建思想を打破したところから啓蒙思想が生まれ、それがフランス革命等を経て市民国家が建設され、やがて産業革命を迎える。この間に発達した資本主義経済が新たに生み出したのが軍国主義であり、国家主義と結合した帝国主義であった。それはいわば、19世紀の「流行病」であった。

明治維新後の日本もそうした時代の流行病に感染していた。ただし、こうした歴史解釈をもって、日本のアジア侵略における戦争責任を回避することはできない。戦争は加害行為を伴うのであるから、そこには当然加害者と被害者が存在し、しかもこの場合、日本は加害者であり、アジアの民衆は被害者であることは自明のことであり、いかなる論理をもってしてもこれだけは正当化できない。ところが最近の戦争肯定論者はそこを見落としているとして批判する。

日本がどれほど当時この流行病に感染していたかを示す歴史的証拠として、明治9年に安政の日米修好通商条約と全く同じ内容の、すなわち相手国に裁判権を認めないいわゆる治外法権などを内容とする条約を日朝間において締結したことを挙げる。日本はアメリカ帝国主義のコピーの如く振る舞ったことを挙げる。

Ⅳ.流行病は終熄したか?終熄したとすればいつか?

暫定的には第一次世界大戦後、先進国間では終焉を迎えつつあった。その論拠は、①国際連盟の成立、②クーデンホーフ・カレルギーの「ヨーロッパはひとつ」の主張、③1928年の不戦条約の提案(これには日本を含む63カ国が加盟)である。

いったんは軍国主義に裏打ちされた植民地主義を内容とする帝国主義は終焉を迎えたかに見えたが、引き続いて第二次世界大戦が起った。日・独・伊(いずれも古い歴史を持つ国家であり、民族であることに注意)は植民地競争に後れをとった後進資本主義国家であったために、これら三国が新たな帝国主義国家として世界に乗り出してきたことが直接の原因であった。だが1945年に3国が敗戦を迎えた時、確定的に終熄を見た。その論拠は、①国連憲章における国際紛争を武力で解決しないという宣言、②植民地の独立(現在ではもはやかつてのような植民地は地球上から姿を消した)、③以後先進国同士の全面戦争がなくなったことである。

Ⅴ.結語

近代日本のアジア侵略の意義と背景を、以上のような歴史の流れの中に置いて考えたとき、日本あるいは世界の国々が、21世紀に帝国主義国家・軍国主義国家に再び変質する可能性はないと結論づける。

それどころか、世界はますますグローバル化の度合いを早め、かつ深めているために、近代史においては侵略のためにあった軍事力も防衛のための軍事力へ、さらに現在ではテロや宗教紛争・民族紛争の抑止のための警察力として機能するようになるなど、軍事の意義・役割も大きく変質してきている。

また「ひと・かね・もの・情報・技術」は国境を軽々と越え複雑に入り組んで行き来しているために、各国の利害が複雑に絡み合って、もはや一国主義や鎖国政策を取ることすら不可能である。

ヨーロッパ諸国がEUを構成して共同体としての結びつきを強めているように、東北アジア諸国も歴史認識を共有しつつ同様な共同体をやがて形成するであろうことは、可能性の有無、必要性の有無の議論を超えて必然の趨勢であり、必ずや「そうなってしまう」に違いない。

                  【記事執筆:谷中信一(日本女子大学教授)】

法政大学国際日本学研究センター
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歴史認識や領土問題で周辺国と対立、混迷する日本の進むべき道はどこに?

 元早稲田大学総長が「平和」「アジア」をキーワードに、この国のリーダー と国民に訴える。


   日本の進路 アジアの将来
      「未来からのシナリオ」
  
     著者: 西原春夫
     講談社 2006年10月


目次
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第1章 21世紀の世界とアジア予測――「東アジア共同体」はなぜ実現できるのか?
第2章 グローバリズムとナショナリズムの相克と調和点
第3章 アジアの中の日本――過去・現在・未来
第4章 積極型平和貢献国家へ――「消極型平和理念」からの進化を!
第5章 法と道徳の二元主義をめざせ――日中韓をつなぐもの
第6章 今なすべきこと――「未来からのシナリオ」という視点で

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2
1世紀的国家観の新提言!!

筑紫哲也氏激賞!
北朝鮮の「核」など、緊張と不安が高まるアジアのなかで日本はどう進むべきか重大な岐路
に立たされている。だが、あるべき未来から、逆算して、現在を照射して見れば、進むべき
路は明確だ――と豊富な学殖と卓抜した着想を基にして本書は説く。この「賢者の予言」を
“21世紀のテキスト”としてなるだけ多くの人に読んでもらいたい。――(筑紫哲也)



平成19年1月 第2260号(1月24日)
■新刊紹介 

 このたび、西原春夫氏(元早稲田大学総長)が、「未来からのシナリオ」を副題として、
近現代の歴史の深層を抉り、正しい歴史認識に立って「覇道」でなくアジアの「王道文化」
に根ざした「積極型平和貢献国家」を目指すべきことを提言した、まさに私たち日本人にとっ
て基本的な歴史認識書であり、今後への基本テキストともなるべき書を刊行した。

 構成は、二十一世紀の世界とアジア予測から始まり、グローバリズムとナショナリズム、
アジアの中の日本、積極型平和貢献国家へ、道徳、儒教、そして平和、今なすべきこと、の
六章から成り、極めて豊富な学殖と鋭い分析、戦中戦後を通じて七〇数年の実体験とグロー
バルな活躍等に基づく卓越した着想等によって、歴史の深層・真意を掘り起こし、その深い
歴史認識に則った現在・未来に向けての提言が展開されている。

 明治以後の日本が、十九世紀的国家観に基づく欧米列強の植民地主義強行的国際環境の中で、
新たに西洋型の考え方を導入し、後進者としてやむにやまれぬ立場から「追いつけ、追い越
せ」の国家目標に至り、歴史的経過も歴史教育もある種のフィルターを通して展開されるこ
とになり、真意は明かされないまま、遂に取り返しのつかない世界大戦に突入、そして敗戦
・被占領・自主権回復・経済成長と経てきたが、この間にも国際的立場もあってか、またも
別のフィルターが掛けられて真意不明の経過が展開されてきた観があるが、そこに光を当て
整理分析して正しく認識した上で、「二十一世紀の後半には、アジアを含め世界中どこでも
国境が低くなり、それにつれて地域的な超国家組織が段階的に形成されて利害対立の調整役
を演ずるようになる」ことを予見し、その中で日本が何を為すべきかを説き、改めてアジア
の儒教精神に則った王道理念をベースとした、積極型平和貢献国家形成の必要性が提言され
ている。

名言

「消極型平和国家は、『・・しない』ことを基礎におく構造上、若者が参加しにくい社会で
もある。(略)消極型平和国家制度を維持したり発展させたり変更したりできるのは、権力を
もつ"大人"に限られる。著者は法学者であり元早稲田大学総長。21世紀的国家観にもとづき、
日本とアジアがどんな距離を持つべきかを示す一冊だ。

★消極型平和国家と積極型平和国家
 憲法9条に代表されるように、「~しない」といった考えにより平和を消極的に日本は求
めてきた。 ODA, NPO/NGOを通じて積極的に平和を主導(..続く)それが若者と国との距離を
さらに遠くさせ、彼らをよりいっそう苛立たせていると思う」p179

国際人になるための第一歩 Date:2007-07-15

 世界の勢力バランスが変化していく中で、日本はこれからどうあるべきか?
 著者は「そもそも世界は今後どう変化していくのか」を明示した上で、どの
ような信条のもとに日本の外交があるべきかを論じています。文章は簡潔、
明快なので読みやすかったです。

 エピローグで紹介されている、著者が北京大学で行ったスピーチには感銘を受けました。
本書は基本的に国家としての日本を論じていますが、このあいさつを読んで個人として
日本を背負っていくとはこういうことか、こうも身近かなことなのかと思いました。

 「~しません」という平和貢献ではなく、「~します」という積極的な平和貢献を
するべきだという点では共感しました。 ただし日本古来の儒教的思想を取り入れるべきだと
いう著者の意見は少し非現実的な印象を受けました。儒教であれ神道であれ仏教であれ、今
の若い世代にはなじまない思想であると思うからです。というわけで、この点に関して違和
感があった。

★消極型平和国家と積極型平和国家
 憲法9条に代表されるように、「~しない」といった考えにより平和を消極的に日本は求
めてきた。 ODA, NPO/NGOを通じて積極的に平和を主導すべきだと著者は示す。

★法と道徳の二元主義
 また法秩序に基づいた主張に止めず、道徳的価値観をくわえた二元的秩序を検討すべきだ
と考える。とりわけ日中の根元にある儒教思想を現代版にアレンジできると考える。

 アジアとの関係を考える上でも、今につながるコンセプトが必要であろう。本書の主張も
含めて、考えられる方向性を多数持っておきたい。