高瀬国雄 財団法人国際センター理事・研究顧問、
アフリカ日本協議会副代表
講師略歴:
・1949年京都大学農学部卒業。農学博士。
農林省、アジア開発銀行(農村開発局長)、海外経済協力基金
(調査開発部長)などを経て、1986念から現職。
・アフリカとの関係は1966年のスーダンを皮切りに、計13カ国(モロッコ、チュニジア、ナイジェリア、ケニア、コートジボアールタンザニア、マリ、エジプト、ジンバブエ、セネガル、トーゴ、ザイール)を150日間、巡回した。
・最近は「世界銀行・NGO懇談会」に、アフリカ日本協議会を代表して数回の会合に出席。
Scan中、後ほどNo2〜No18をアップします。
「食料・環境・貧困のトリレンマへの挑戦」
まず,第1番目の食料です。米が足りなくなるのか、余るのか?
この楽観論,悲観論,中間論のいずれも,根底になっている考え方は「技術と経済」の2つの点から,「過去はどうだった。将来はそれがちょっと変わるがこうなるだろう」という前提でやっているからです。ところが過去2回だめなときがありましたが,この2回とも「政治」的な要因なのです。技術的な要因でもなければ経済的な要因でもない。石油ショック,ソ連の崩壊,わからないことが将来に起こるか起こらないかによって,全く変わってくる。しかし,それを予測しろということは無理な話です。そうかといって,そういう要素を考えない予測を,あたかも正しいように言うのは人を迷わすだけではないかと思うわけです。
「政治」のほかに貧困という「社会」的要素もあります。今でも食料がこのように余っていても,アフリカの貧困層は食べられない。アジアでも,南アジアの人に食べられない人が多くいるということは,余剰食料を運んでいくコストが高くかかるので,貧困人には買えない。要するに「技術」や「経済」以外に「政治」とか「社会」状態といった要素の影響が非常に大きいと思います。それらをどのように数量化するかということが難問なのですが,そこが解決されない限り,こういう予測をしても限界があると私は思います。
それとは別に,今度は需要のネガティブな面としては,今,先進国の人は食べ過ぎているということがあるわけです。それでは地球上でいくらでも生産できるというのは本当かどうかという問題です。これは日本の水田農業が600年から2000年までどういう具合に発展してきたかを示しています。明治維新の直前の1800年あたりには2.5トンぐらいになります。このころに日本の「緑の革命」が始まったのです。
次に環境の問題です。「環境」は,農・林・牧・魚の共生ということによって,かなりの程度農地の劣化は防げると思います。それから建材と燃料の不足は森林の保全をやればいいのです。地球環境の崩壊を防ぐためには,先進国が成長を抑制するのが最短の道ということです。ジアはどうだということを,いちいちやってみなければいけません。環境保全をするにはどういう点をどのようにしなければならないかというアクションプログラムをつくらなければいけませんが,うまくいってもあと10年ぐらいかかると思います。
3番目に「貧困」ですが,これは一番困難で,何十年という年月が多分かかると思います。農作物を多様化することによって土地保全はできる。しかし豊作貧乏になれば,農村から都市へ人口が流出してゆきます。これは農業だけでは儲からないからです。儲けようと思ったり,楽な生活をしようと思ったら,都市へ行くのがいいですから。1次・2次・3次産業の総合化によって,ある程度貧困対策はできると思います。それから貧富格差と地域紛争は,今,世界で80何カ所紛争がありますが,そのほとんどは民族間のトラブルが原因です。国と国との戦争というのはほとんどありません。国の中,あるいは国境を挟んだ違う民族の,しかも貧富格差がテレビなどですぐに伝達されるわけです。「どうしてあいつらは金持ちで,俺たちはこんなに貧乏なのか」と,それは誰だってケンカしたくなります。そういうふうなことが非常に大きな原因になって,数量的な分析はありませんが,貧富格差というのが今の世界の戦争な大きな原因の1つになっていることは間違いありません。
最後に,やはり国連でしょう。国連は無力ですけれども,そうはいっても他に方法がないのです。CGIAR(国際農業研究センター)などでも食料生産のことは一生懸命にやっていますが,無力で小さい。やはり国連の大きなところでやらなければいけない。日本も安全保障理事会の常任理事国にでもなって,英語がもっとペラペラに話せるようになって,堂々と国連の席上で今私が言ったような新しい考え方をどんどん発言できるようにならなければ,いつまでも悪循環ではないかというふうに思います。
もう1つ,中国の開発戦略において社会主義市場経済はどういうふうにうまくいっているかという今年の調査の結論です。まず,中国政府の政策は「食料増産と質の改善」,それから「所得・雇用機会の増加」,「貧困の緩和」,「環境保全」という4つの優先分野を設けています。それに対して日本はどういうふうな協力ができるかということです。これはまだ1年目ですから,仮の結論として1997年のものです。もう少し中国といろいろ話をしまして,中国はどういうことを本当に望んでいるかということをよく聞いてから,日本政府はどのようなことについて協力するか,あるいはできるかという話になっていくだろうと思います。とりあえず以上,私たちが実施中の中国農林水産業協力調査の中間報告を申し上げました。
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「21世紀開発基金」は、当センターの顧問である高瀬国雄氏の拠出した私財をもとに1994年4月に創設され、当センター研究スタッフの専門能力向上と成果の蓄積を通じて、21世紀における開発途上国の発展および国際協力の拡充に寄与することを目的としています。
同基金の活動は、開発問題、国際協力問題に関する調査、研究、研修に対する助成金の支給であり、同基金創設以来、すでに17件に及ぶ自主研究/研修事業への補助実績があります。IDCJの自主研究事業
http://www.ne.jp/asahi/fas/soc/writings/fushin/f34kankyo-hinkonj.html
環境・貧困と地球的農業革命 高瀬国雄FAS協会『風信』34
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