原子炉にかけては最先進国であるフランスでさえ、高速増殖炉スーパーフェニックスを
投げてしまった。日本だけが熱心だが、世論の風はカトリーナ並 みの逆風だ。しかし、
古くて新しいトリウム溶融塩炉というのがある。これを見直せないか。本書の主人公、
トリウム溶融塩炉は、数々の優れた特徴を 持っている。
- ウラン/プルトニウムからトリウムへ
- 核兵器とどうしても切り離せないウラン/プルトニウムと異なり、トリウムは核兵器へ
- の転用が根源的に不可能。しかも資源も豊富でウランほど偏在しない。
- 固体燃料から液体燃料へ
- 現在商業運転中の原子炉のほぼ全てが固体燃料であるが、トリウム溶融塩炉ではトリウム
- を溶融塩に溶かし込んだ燃料を使う。そのおかげで高圧部分がほとんどなく、炉の設計は
- ずっと安全かつシンプルになる。制御棒すらほとんどいらない。
- 大型炉から小型炉へ
- 現在の原子炉は、ほとんどが100万kW超の大型施設ばかりだが、運転調整が簡単で工学的安全性が高いなトリウム溶融塩炉なら大きく作る必要がない。
- しかも驚くべき事に、基礎研究はすでに1960年代には完了している(私が生まれる前だ)。「これから開発しなければならないブレークスルー技術」というのがほとんどないのだ。エンジニア用語でいえば、取り生む溶融塩炉は「枯れた技術」なのだ。強いて言えば、トリウムをウラン233に転換するための核スポレーション炉ぐらいであるが、これも枯れた技術の集大成で難なくできそうである。
それでは、こんないいものがなんで捨て置かれていたのか?どうも一番のネックは、「原爆を作るのにはまるで役にたたない」という最大の利点にあ ったようなのだ。そして「事故が起りにくい」故ニュースにもならず、認知も遅れたというわけだ。
トリウム熔融塩炉が何故取り残されているのかなぜこれが世に出なかったか?一つは核冷戦であるが、また基本技術が余りに優れ余りに僅かな人員資金で、当時は最僻地のオークリッジ研究所のみで進められ、事故がないので世に知られなかった。彼らの初期の「熔融塩増殖炉」構想の困難を打開した新構想を1980年に提案したが、自民党が早速超派閥百名の議員懇話会を発足させた位である。その後技術内容も拡充され、1983、90年にソ連、1987年に仏電力庁が共同研究を提案してきた。2002年にはOECD・IAEAが共同推薦した。米露政府も認知している。しかし原爆を作る予定もない日本でなぜプルトニウム一点張りなのか、この点は本当に理解に苦しむ。
本書はトリウム溶融塩炉の優位性を説きながらも、決して押し付けがましいところはない。欠点、例えば高エネルギーガンマ線の問題(しかしこれも 核テロを防ぐには非常に有効)もきちんと指摘しているし、結論を出す前に「まず実証炉を作って確かめよう」と提案している。非常に好感が持てる 姿勢なのだが、裏をかえすと押しが弱いと言えるかも知れない。
その意味で、本書に最も足りなかったのは、実証炉を作るための予算額だったかも知れない。ざっと見で、ちゃんと商業運転ができるFUJI-2でもせい ぜい数百億円オーダーのように思えた。高速増殖炉関係にすでに2兆円以上つっこんでいることを考えればずいぶんと安い。このオーダーであれば、 政府関与なしで出来そうである。軍事転用が難しいことを考えても、はじめから民間ベースでやるというのはどうなのだろうか?
Dan the Reacting Man Posted by dankogai at 13:55│Comments(7)│TrackBack(3)